「ライのことが聞きたいんだろ?」
――はい、今度ライさんの密着をやるんです、そこで元メンバーの方々のインタビューも
「ああ、聞いてる聞いてる。しっかしすげえよなあ、ドラマにちょい役で出てたと思ったらあれよあれよと、朝ドラ出ちゃうし、今度あれだろ、日曜九時、しかも二番手だっけ? いい役で。いやほんとすげーわ、俺たちとやってたときからしたら、随分と」
――ユニット活動は、結構苦労されたとか
「まぁな、そもそも地方のさ、ほとんど素人みたいなプロデューサーの思いつきでやってたようなもんだからな、思いつきだからさ、ころっころ変わんのよ、コンセプトっつーかさ、ほら、最初は王道アイドル!みたいな感じだと思ったらさ、次はロックだ!とか、和だ!とか、勝手に某2.5次元ミュージカルっぽいことやってみたりさ、もう滅茶苦茶よ、曲もなんかどっかで聞いたことあるよーな感じだったこともあるしさ、大体予算もねーからさ、衣装もなんかしょっぼいの、ぺらっぺらだしさ、そんでもさ、地元のテレビとかには出れてさ、スーパーでイベントやったりもしてさ、そんでそんなんでもファンがつくのよ、イベントとか毎回同じ顔ぶれなんだけどさ、でも来てくれるんだからありがたいわな、」
――当時のライさんは、どんな感じだったんですか?
「どんな、ってなあ……、真面目だったよ」
――真面目、ですか
「うん、真面目っつーか、真剣っつーか、」
――真剣、
「なんてーの、売れたい、ってのが、一番あったかもな、ライが」
――メンバーの中で、ですか
「そう。なんつーか、俺はこれで食ってくんだ、って決めてるっつーか、思い詰めてるっつーか」
――思い詰めてる、
「そりゃみんな売れたいと思ってたけどさ、最初は夢見てたし、頑張ってたし、売れたかったけどさ、言うて、あんな地方の、ころころやること変わるわやってもやっても売れんわでさ、無理かもなって思ってくわけよ、地方でも売れないのに全国区になんてなれるわけねえしさ? でもあいつは、それでもずっと売れてやるって思ってた気がすんだよな。解散してたぶんすぐ東京行ったし」
――解散の理由は、売れなかったから、ですか
「ああ、もうこれ以上やってもどうにもなんねーだろ、ってなんとなくみんな思っててさ、プロデューサーも思ってたんだろうな、俺たちが解散させてくれっつったら二つ返事でOKしたよ。あっけないもんだよな、こっちは十代のさ、替えの効かない時間を二年以上使ってたってのに」
――ライさんも、同意されてたんですか
「ん? 解散するってことに? ああ、そうだよ。あいつも、それがいいと思うって言った。あいつも、このままやっててもって思ってはいたんだろ」
――それですぐ、東京に
「たぶんな」
――解散後は、メンバーの皆さん、連絡は取ってらっしゃらないんですか
「ああ、ライ以外は今何してるかも知らねえな。ライだって、テレビ出てるから知ってるだけだけど」
――デンさんは、ライさんの現在の状況をどう思ってらっしゃいますか
「どうって、すげーなって思うよ。ほんとに売れたんだなって」
――では、ライさんはどうしてこんなに大スターになったんだと思われますか
「どうしてって……なぁ、あいつはほら、真面目だったし売れたいってゆー気概っつーの?そういうのは強かったし……」
――なるほど、真面目さと、売れたいという強い思いがあったと、
「……ああ。……あーでも、あれ、ほら、あんた聞いたことあるか? 人魚の粉」
――人魚の粉?
「ほんとに人魚かは知らねえけどさ、そう呼ばれてる薬があってさ、」
――薬
「それ飲むと、才能がぶわっと開花するんだってさ、歌とか踊りとか、ステージに立つための技術っていうかさ、単に上手くなるんじゃなくて、華が出るっつーか、そういうんで、飲めばスターになれる、ってさ」
――そんな薬が?
「俺だって信じてるわけじゃねえよ? でもさ、一回、プロデューサーがさ、俺たちに見せてくれたんだよ、その薬を」
――人魚の粉を?
「そう、ただの白い粉だったけどさ、匂いもなくて、そんときは誰も飲まなくてさ、だってこええし、いきなり人魚の粉とか言われてもさ、何だかわかんねーし、飲んだら売れるとか言われてもさ、にわかには信じらんないっつーかさ」
――それはそうですよね
「でも、あいつは飲んだんじゃねえかな」
――え、ライさんが、ですか?
「そう。いや俺も飲んだの見たわけじゃないしさ、想像だけど、でも、あいつはそういう、本当かわかんないもんでも、それを飲んででも、みたいなところは、あったと思うんだよな」
――はぁ、……人魚の粉、ですか
「東京でちらっと芸能事務所とも絡む仕事してたけどさ、そんときにも聞いたんだよ、人魚の粉」
――そうなんですか?
「ああ、そういうものがあるらしい、って噂だけどさ」
――結構、有名なものなんですかね……
「さあ、ま、可能性のひとつってことで。少なくとも、そういうのを飲んででも、って覚悟みたいなものは、ライにはあったと思うよ」

 

「っあー……」
「先輩煮詰まってますねー」
「煮詰まってるよー、どうすりゃいいんだよこのインタビュー。人魚の粉なんてそんな怪しい話使えないよ」
「まぁ、前半だけ使うとかでも? いけないんすか?」
「まーなー、でも、現在への言及がないのもさ、いやないわけじゃないんだけど、薄いっつーか……」
「マキさんとクウさんは、結局インタビューできずですか?」
「ああ、クウさんは繋がらず、マキさんは電話で話すだけならって、ちょっと話してくれたけど、まぁ特に目新しい話はなかったな」
「人魚の粉もですか?」
「ん、ああ、一応訊いてみたけど、そういえばそんなこともあったような、くらいで」
「へー、……本当にあるんですかね、人魚の粉」
「さあ。俺は聞いたことないけどねえ……」
「案外、デンさんの作り話だったりして」
「作り話?」
「ほんとはただ、ライさんが売れたことに嫉妬して、才能じゃなくて薬のおかげだってことにしたかったとか」
「それにしても随分奇抜な作り話だな……大体、マキさんも覚えはあったみたいだし」
「そっか」
「あー、もうこれどうしよ」
「でも、ちょっと怖いですよね」
「ん、何が?」
「本当にその薬を飲んだのだとしても、嫉妬による作り話だとしても」

 


 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは関係ありません。

(20250131/初出