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わたしの猫 キィとネジ

キィとネジ

 船は定員ぎりぎりまで人が乗っていて、二人で落ち着く場所を探すのに苦労した。
 定員ぎりぎり、というのは運行側の発表で、きっともっと乗っているんだろう。もちろん違法だし危険だというけど、背に腹は代えられない。
 背に腹は代えられない。変な言葉。
 ネジが聞いたら何て言うかな。

 同じくらい──十代半ばくらいに見える子供たち。あっちもこっちも、同じくらいの年頃、同じ髪色、同じ目の色、同じくらいの身長、同じような体格──カプセルの中はみんな同じ。みんな迷彩柄の上着と迷彩柄のズボン。上着の中は白いTシャツに決まってる。工場はそういうカプセルがいっぱいだ。
 均一に製品が造られていく工場。
 だから、不良品の俺やネジは目立つ。
 ネジはアルビノで、俺は身長が足りない。

 移民船にはいろんな人間がいる。工場から出て、人間というのはこんなにいろいろなのか、と思ったくらいだ。工場でだって大人はいろいろだったけど、子供はみんな規格通りだ。でも外のいろんな人たちの中では、俺の身長は大した違いじゃなかった。同じ年頃に見える人間と変わらない。身長は工場の規格通りのネジはここではむしろ高い方だった。ここには、背が低い人も、うんと背が高い人もいる。
 でもこんなに人がいてもネジみたいに色の薄い人間はいない。
 工場を出るときからずっと、ネジはコートのフードを深く被ってる。工場にいた大人が着ていたのを取ってきたけど、正解だった。光を浴びないようにというのもあるけど、ネジの髪や目の色を見た人間はみんな驚く。なるべく目立たないようにした方が面倒がなさそうだった。

 カプセルの外も大して変わらない、と思った。
 もっと開放感みたいなのがあるかと思ったけど、別に変わらなかった。工場の中だからかな。
 誰も命令していないのに、みんな外へ向かっていた。
 ほかのみんなが何を考えているのかなんてわからないけど、でも、みんな外へ出たがっているってことはわかる。俺たちも外へ出たい。なんでかは、わからないけど。
 銃を手に立ち塞がる大人を適当に蹴散らしていく。戦闘能力で俺たちが負けるわけない。そういうように、造られたのだから。倒れている大人が生きているのか死んでいるのかなんて誰も確かめない。そんなことを気にするようには、できていない。
 ときおり子供も倒れてる。それも誰も気にしない。大人も子供も、使えない兵器のことなんて気にしない。

 この移民船がどこに向かっているのか、俺たちは知らない。
 どこでもいいから、あの星を離れるために飛び乗った。
 船は星を出ようとする難民という人たちでいっぱいで、俺たち二人が紛れたことなんて誰も気づいていなかった。
「ありがと、キィ」
 配給のビスケットとスープをネジに渡す。船での食事はずっとこれ。
「せっかく外に出たんだし、そろそろ違うものが食べてみたいな」
 ネジがもごもご言う。
 ビスケットは口の中の水分をぜんぶ吸ってしまう。スープはいつも同じ味。何の味かはわからない。工場では食事というものはなかったから最初は新鮮だったけど、ずっと同じものが続くと別の味のものも食べてみたくなる。
「いつどこに着くんだろうな」
 船に乗って、一週間は過ぎている。大人の腕から取ってきた時計の日付は、船に乗ってから九回変わった。

わたしの猫
星の中の空、星の外の空

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