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わたしの猫 星の中の空、星の外の空

星の中の空、星の外の空

 居住区を覆うドームの空は少し赤の強いオレンジ色。地球の空の色を模しているというけれど、地球で空がこんな色になるのは一日の中でも一瞬に近いらしい。

 第二八〇六七六星系。人類の宇宙進出が進みもはや固有名も付けられなくなった頃に発見され、辺境ながらもそれなり移住の進んでいる地域だ。恒星の周りを巡る六つの惑星とその衛星からなる星系は独立国家であり、独立以降ずっと中立を掲げている。宇宙中延々と戦争をしている中では少々珍しい。
 この星系で一番栄えているのは第三惑星で、ほかの星系と行き来する長距離便が停まる大きな港もある。
その港から少し離れた、この星で一番大きな駅、中央駅のロータリーに機体を停めて、しばしの休憩兼客待ち。俺は星の中やときには星系内のほかの星へお客を運ぶ不定期小型短距離便──いわゆるタクシーの運転手だ。小型機の機体は白に水色。爽やかだしかわいくて気に入っている。客室は人が最大四人乗れて、ドーム内の道を走ることも、ドームを、星を出て宇宙空間を進むこともできる。スピードはそれほど速くないし、乗せられる人数・重量も限られるけれど、なかなか重宝する足だと我ながら思っている。

 ノックのような音で目を覚ます。誰かが機体の外の呼び鈴を鳴らしている。モニターを確認すると、若い女性が一人立っていた。
「どちらまで?」
「あの、第六惑星まで、行きたいのですが」
 女性は遠慮がちに、このタクシーが行く一番遠い星を言った。
「第四惑星と、第六惑星の衛星を経由して、だいたい十四時間ほどかかりますが、それでもよろしければ」
 女性は少し安心したように微笑んで頷いた。
「お願いします」

 乗り込んできた女性は旅行鞄ともう一つ大きな荷物を隣に置いた。髪の長い、静かな印象の女性だ。
 彼女がシートベルトをしたのを確認し、出発。第六惑星まで行くのは久しぶりだ。
 窓の外を見ている女性は、少し緊張しているようにも見える。
「港まで高速を使っても?」
 客室と運転席の間には壁があるけれど、モニターと窓があるし、会話も可能だ。
「はい」
 街の上を走る高速に乗る。オレンジ色の空をいくつものヘッドライトやテールライトがよぎっていく。港までは一時間もかからない。

わたしの猫
キィとネジ

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