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わたしの猫

「わたしの猫」

わたしは猫を飼っている。
もうちょっと正確に言うと、猫のようなものを飼っている。
――OLが衝動買いしたペットの話。(#ヘキライで書いたものを加筆修正)

「キィとネジ」

均一に製品が造られていく工場。
だから、不良品の俺やネジは目立つ。
ネジはアルビノで、俺は身長が足りない。
――工場を逃げ出し移民船に乗り込んだ二人が辿り着くのは…。(「移民船195」)
  後日談「菫青」(ネットプリント企画・紙街で配信)も収録。

「星の中の空、星の外の空」

居住区を覆うドームの空は少し赤の強いオレンジ色。地球の空の色を模しているというけれど、地球で空がこんな色になるのは一日の中でも一瞬に近いらしい。
――タクシー運転手がめぐるいろいろな空のお話。(アンソロジー「空」寄稿作)

わたしの猫

 わたしは猫を飼っている。
 もうちょっと正確に言うと、猫のようなものを飼っている。
「ん~~~」
 ライ、というその猫(のようなもの)が大きく伸びをした。彼はごろごろと、ベッドの上でころがっている。
 元々猫は好きだった。美しく、気高く、気まぐれで、けれどわたしの家にいてわたしの与える餌を食べ、ときに遊んでくれもする。そういうものに、憧れていた。
「ねー、お腹空かない?」
 ベッドに転がったまま、大きな黒い目がわたしを見て空腹を訴える。
 猫ってこんな感じなのかなあ、とか思う。実際には、ライの外見は猫ではないのだけど。私は猫というものを、機械仕掛けのものも含めて飼ったことがなくて、だから本当の猫がどういう感じなのか、実のところよくわかっていない。まぁでも、中身はともかく外見がこういうものでないことだけはわかる。というか知ってる。
 ライはペットショップでカプセルに入れられて売られていた。
 細身でそこそこ長身の、人間の男の姿をしている。
 最近ちょっと流行っているらしい、人造人間のペットだ。見た目は二十歳になるかどうかというくらいだけど、ペットの年齢の数え方をちゃんと知らないので、ライが正確には何歳なのかわたしは知らない。
 買ったのは正直、酔いとあまり機嫌がよくなかった、その勢いによる。わたしにしては高い買い物だった。食べ物だの日用品だの維持費もかかることを思えば本当に高い買い物だ。人間と同居するのと同じようなものだと、ちょっと考えればわかりそうなものを。
 別に後悔しているわけじゃないけど。

 §

 そんなに遠くじゃないけど、星系の外へ行くことなんて滅多にないからやっぱりちょっと、疲れた。気分転換にはいいんだけど。とにかく、まだ酔いが醒めていなくて気分が悪い。最悪だ。出張先は強い酒が名物で、行くたびにこれでもかというくらい飲まされる。
 家へ帰るにはまだ船に乗らないといけない。定期便はそれなりの本数があるし、乗る前に少し休もう。
 ふらふらと港を離れて駅前の自販機で水の小さなボトルを買って一口飲む。ふう。
 酔いを醒まそうと大通りを歩く。まだ夜の八時くらいで人通りも多い。賑やかだ。酔っ払いも多い。自分もその一人だけど。
 ペットショップの看板が目に入る。こんなところにあったかなとか思うけど、しばらく来てなかったしな。
 猫でも見たいと思った。
 飼ったことはないけど、猫は好きだ。かわいい。ふわふわで、ぬくぬくで、気まぐれで気高くて美しい生き物。
 できればたまには本物を見たいけど、この際機械仕掛けでもいい。戦争をしていない地域ではペットを飼うのが流行りだとこないだニュースでやっていた。この店も新しくできたのかもしれない。機械仕掛けの犬や猫や鳥は、見た目も本物とそう変わらず、かわいくて、性格も飼いやすいらしい。本物の犬や猫や鳥もいるけれど、機械仕掛けの方が安くて手軽だ。安いものは子供の小遣いでも手が届くとニュースキャスターが言っていた。
「いらっしゃいませ」
 間違えた、と思った。
 店の中に並んでいたのは電気コードでも金網のケージでもなく丸い透明なカプセルで、入っているのは猫や犬ではなく人間だった。

キィとネジ
星の中の空、星の外の空

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