- 文庫(トレペカバー付)/56p/¥400-
- 20161123(第二十三回文学フリマ東京)
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太白寮小景 夏が終わるその前夜
「肉うめー!」
「柊、落ち着いて食べないと咽喉つまるよ」
宗介、柊に構ってる間にヨウがラス一取ったよ。
「これももう焼けてるよー」
「おーありがと、……助さんずっと焼いてない? 食えてる?」
「食ってない!」
いい加減後輩に代わってもらえよ。
「和真それまだ焼けてないよ」
「え、尚登早く言ってよ!!」
口入れる前に自分で気づけよ。
「わっ苦い! なにこれ!! ねえ琉斗これなに!?」
「ピーマンだね」
……。
星月学園。大正時代にどこぞの侯爵が某王国の某伝統校に憧れて作ったという、中高一貫、元全寮制の私立男子校である。通学生が増えた今でも七つの寮は健在だ。
その一つ、太白寮の面々はこの夕方、珍しくみんなで浜辺にいた。六年生──世間で言うところの高校三年生だ──の楢沢浩二(通称ならちゃん)は、自分の一言から始まった騒ぎを楽しそうに眺めている。
始まりは昨日の夜。夕食の後だべっていたら思いついて、「バーベキューしない?」と宏大に言ってみたら、あれよあれよと話が進んだ。
というか、
「康ちゃーん、明日の夜バーベキューしない?」
「バーベキュー?」
「……なんかならちゃんがね、バーベキューしたいんだって」
「ほら、夏休みももう終わりだし」
「ああ、いいんじゃない」
「いいんだ!?」
「楽しそうじゃん、明日にはみんな揃うみたいだし」
寮長の康ちゃんがあっさりゴーサインを出して、その瞬間このバーベキューは(非公式)寮行事になった。寮長は強い。
「え、でも準備間に合う? そもそもバーベキュー用のコンロ? とかそういうの何もないよ?」
宏大は心配性だ。
「歳星寮が持ってなかったっけ? 言えば貸してくれるっしょ」
歳星寮は太白寮と同じく学園創設時からある寮の一つ。規模は太白寮よりも少し大きいくらいだが、何故か生徒会長は代々歳星寮だ。なんとなく、優秀で優等生な寮生が多い。たぶん。
「歳星がダメならたしか水泳部も持ってる」
「何故水泳部が」
太白寮には水泳部員がいないからこれは結局わからずじまいだ。
「ただいまー!!」
午後の太白寮に柊の大声が響きわたる。
「しゅうちゃんおかえりー」
それにちゃんと返してあげる宏大は優しい。ま、柊はかわいいからね。
「ちゃんと買えた?」
でも仕事のことも気にする宏大。
「買ったよ!! 肉と、肉とー、肉!」
絶句しかけたところに、オズが補足した。
「……野菜もね。人参とかぼちゃとかパプリカとか。あとお菓子もちょっと」
「お菓子?」
「うん、マシュマロとかうまいかなって」
「あ、うまそう」
「いいじゃん、なんかちゃんとしてる!」
「……大変だったんだよ?」
宗介が恨めしそうに言う。
「柊は肉しか見ないし、野菜嫌がるし」
「ヤだよ! っていうかバーベキューに野菜いる!?」
「いるよ! 肉だけなんて飽きるわ!!」
「えー」
「関係ないお菓子買おうとするし」
「いいじゃん食べたいじゃんポテチとかチョコとか」
「それは自分で勝手に買え!!」
……このやり取りの間にオズが野菜だけ持って台所行ったからとりあえず肉持ってって下ごしらえとか手伝った方がいいんじゃないかな、たぶん。