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珈琲一杯。

  • A5/28p/¥200-
  • 20170501(第二十二回文学フリマ東京)~20160918(本の杜10)で頒布した同人誌を電子書籍(pdf)化
  • 403adamski

7:35 a.m. ワンルーム

 寝巻から着替えて、軽いメイクをして、リュックに教科書を入れて──今日は一限から五限までぎっしりなので多い。重い──、パンが香ばしい匂いをさせながら焼けた頃。
 コーヒーメーカーから漂ういい香りもだいぶ濃くなった。
 出来上がったコーヒーをカップに注ぐと一層香りが立ち上る。
 あー、目が覚める。
 そう心の中で呟くと、侑花はカップと皿をローテーブルに置き、コーヒーとパンだけの簡単な朝食を食べ始めた。
 高いバターの代わりにマーガリンを塗った食パン一枚。かなりシンプルだが、小食な侑花にはちょうどいいか日によっては重いくらいだった。チーズを乗せるなりジャムを塗るなりした方がむしろ食べやすいのでは、という考えは彼女にはないらしい。
 コーヒーは実家での習慣だった。どうしてもおいしいコーヒーを(安く)飲みたい、と我儘を言って実家から持ってきてしまったコーヒーメーカー。コーヒーを飲むひとときは侑花にとってちょっとした贅沢だった。
 朝にのんびりコーヒーを飲めるなんて早く起きられた日だけの贅沢だ。
 寝坊症な侑花はそう噛みしめるようにコーヒータイムを満喫する。
 この後一限から五限までみっちり授業だなんて考えたくない。なんならこのまま家でぼーっとしてたい。
 珍しくテレビも点けず静かだからか、とりとめもないことが頭を通り過ぎていく。
 それいいな、いっそ一週間ぼーっと……
 ふと壁の時計を見ると八時を過ぎている。
「やっばい遅刻だ!」
 やはり時間経過がわかるようにテレビは点けておくべきだったか、と後悔する侑花は、シンプルすぎる朝食をのんびり食べ過ぎだということには気づいていない。
 慌てて重たいリュックを背負って玄関で靴を履く。
「あああ寝ぼけてたら靴下左右で違う! ……いっか! どうせ見えないし!!」
 とんとん、とスニーカーの爪先で地面を軽く叩いてから、
「いってきまーす!」
 勢いよくドアを開けた。

 慌ただしくも贅沢な一日の始まり、侑花の午前八時十三分。

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