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片割れ

春のわくわく死体埋め企画
活動:桜の下に死体を埋める
規約:ただし二次元のうちであること
期間:春の間
専用タグ:「#桜埋め

 学校の裏庭には桜がある。
 海に近い学校の中でほとんど唯一まともに花が咲く桜なのだけれど、生徒はあまり関心がない。この桜に纏わる噂も関係しているのかもしれないけれど、他愛ない噂話のせいというよりは、単純にこの年頃でわざわざ桜を愛でようと思う方が珍しいんだと思う。
 そもそも普段からこの裏庭を通る人間は少ない。
 だからわたしはいつも一人でここを通る。
 委員会やら課題やら理由をつけて一人で帰るとき、あえて裏庭を通って桜を眺める。
 今年のこの桜は今が満開だ。毎年、街中の桜よりも少し遅い。
 そこらの桜と同じ種類だと思うのだけど、ほかの桜よりも紅が濃い。だからあんな噂ができるんだろうな。
「あれ」
 びっくりして、思わず声が出てしまった。
 今日は先客がいた。
 わたしの声に、木の下にいたその人が振り返る。男子生徒だ。校章はしてないし(校則では着用が義務らしいけれど守ってる生徒はほとんど見ない。わたしもしてない)、上靴じゃなくてスニーカーだから学年はわからない。
「二年生?」
 にこやかな人だ。三年生かな。
 頷いたら、そう、と言ってまた桜に向き直ってしまった。
「ここにほかの人がいるの、初めて見ました」
「そうみたいだね、こんなに綺麗なのに」
「変な噂になってますし、まず場所が地味ですからね」
「変な噂?」
 先輩がやっとこっちを見た。やっぱり知らない人だ。それなり生徒数のいる学校だから、知らない人なんてごまんといるわけだけど。
「知らないですか? この桜の木の下には死体が埋まってるって話」
 他愛ない噂話だ。
「へえ、そんな噂になってるの」
 先輩は本当に知らなかったみたいで、でも特に驚くでも怖がるでもなく、また視線を桜に戻してしまった。
「ほとんど怪談みたいになってます。昔行方不明になった男子生徒二人、その片方だ、とか何とか。もう一人は殺して埋めた後で逃げたとか自殺したとか」
「すごいね」
「バリエーション変えてどこにでもありそうな都市伝説ですよね。だいたい、男子二人って話もあれば、男女だって話もあったりするし」
「そういうの、どこから出てくるんだろうねえ」
「どうなんでしょう、そもそも生徒が行方不明なんて話聞いたことないですけど」
「きみは怖くないの?」
 そう訊いてくる先輩は桜を見たままだ。花を見ているのか、木を見ているのか、ちょっとわからない視線だった。
「だって、ただの噂でしょう。どこにでも一つや二つありそうな。先輩は怖いと思います?」
 先輩の口が開く。薄くて紅い口、なんとなく見てしまう。
「きゃっ」
 急に強い風が吹いた。紅が舞って綺麗だ。
 と、大事なことを思いだした。
「電車! すいません、わたしこれで!」
 次の電車に乗らないと塾に間に合わない。
 走って校舎の脇を抜ける直前、ふと視界の端に入った桜が何故だか引っ掛かって振り返ったら、そこには誰もいなかった。

 男子生徒の返答は声が小さかったから、ちょうど強い風が吹いたから、彼女の耳には届かなかった。
「まぁ、埋めたのは俺だからね」

(2017.04.15)

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